人喰いサメっていうとJAWSをはじめとする数々の映画を思い浮かべます。
ただ、実際にそんなに恐ろしいサメが我々の周りにいるのでしょうか。
McPhee (2014)(※1)によると、1982~2012年にかけて、非誘発的な(ヒトがちょっかいを出していないのに)サメにかまれるケースは年々増えているそうです。
2012年は世界中で計80件ほど事故が起きており、15人前後が亡くなっております。
世界56か国でサメの事故が知られ、特にアメリカ、オーストラリア、南アフリカは報告件数が多いとされています。
近年は海洋レジャーが盛んになっており、ヒトと海洋生物の行動範囲がかぶることも増えており、事故が増えているかもと言われています。
これらの事故を起こすサメの中でも、特に危険なのがホホジロザメ、イタチザメ、オオメジロザメの3種です。
上記3種のうち、前者2種は主に沿岸や沖合などで見つかるサメで、ダイビングや釣りなどのレジャーや漁業中に出会う確率が高いサメです。
残ったオオメジロザメに関しては、他2種というか、他の色んな種類のサメの中でも非常に特徴的な生態を持っています。
それは、純淡水(真水)も平気という性質です。
つまり、川も平気で入ります...
さて、2015年9月、宮崎県大淀川の河口で釣りをしていた方が、釣った後にヒモにつないで活かしていた魚が何者かに食われました。
さらに後日、その釣り人の知り合いの方が同じ場所で約70 cmのサメを釣っています。
さらにさらに翌月の10月に、同場所で生きた状態で体の後半部が欠損し、血を流しながら打ちあがったコイをその釣り人の方が発見。
彼は間違いなくサメの仕業だと確信し、それからひたすら通い続けました。
そしてついに、翌年の5月に104 cmのサメを釣り上げたそうです。
釣ったサメの写真を撮り、食べたいと言った彼の友人にあげたそうです。
彼はこの一連の流れをSNSに投稿しており、それを発見した私が連絡を取り、写真や情報を提供していただけることになりました。
写真からこのサメをオオメジロザメと同定し、これまでの分布域(日本では琉球列島しか知られていなかった)よりも北にある宮崎で採れたということで、論文にすることになりました。
このオオメジロザメ、世界中の熱帯や亜熱帯域に分布しています。
近年では温帯域でもちょくちょく報告が増えてきています。
また、世界中の本種の遺伝的な解析を行った論文(※2)によると、日本の琉球列島は遺伝的に他地域とは異なる固有の個体群ということも分かっています。
そのため、宮崎県のような日本の本土域で今後本種が得られたら、遺伝的な解析をしてみると、琉球列島から流れてきているのか、はたまた別の海域由来の方いなのかも判明すると思います。
今回は写真だけの記録ですので、次は標本が欲しいところです。
(誰か釣って~笑)
そして、上述のように危険なサメではありますが、漁業や環境改変等により数を減らしているとされています。
また、サメやエイの仲間は成熟までの期間が長い上に、胎生に種も多く、一度に出産する数が少ないことも知られております。
このことから、オオメジロザメはIUCNレッドリストで絶滅危惧種に指定されております。
そのため、危険だからと言って駆除しすぎるのも考えものです。
ヒトとの接触リスクと、本種の保全の両方を考慮した政策や呼びかけが今後望まれますね。
最後に、今回のように釣り人を含む多くの方々が持っている情報の中には、希少種のデータとして重要なものが含まれている可能性があります。
今後はそのような方々が、気軽に研究者に連絡を取れるような仕組みや流れができるといいですね。
ということで、これらの話をまとめた論文が先日、イギリスの学会誌から出版されました(以下リンク)。
興味のある方はぜひ読んでみてください(オープンアクセスではないので、読みたい方がいらっしゃしましたらご連絡ください)。
もし、宮崎県や鹿児島県などでサメを釣ったという方がいましたら、ご連絡ください。
結構貴重なデータになるかもしれないです。
※1: McPhee. 2014. Unprovoked shark bites: are they becoming more prevalent?. Coastal Management 42: 478–492. https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/08920753.2014.942046
※2: Devloo-Delva et al. 2023. From rivers to ocean basins: The role of ocean barriers and philopatry in the genetic structuring of a cosmopolitan coastal predator. Ecology and Evolution 13: e9837.
https://doi.org/10.1002/ece3.9837