投稿してから約9か月、いろいろありましたがようやく日本初記録の魚の論文が公開されました。
日本の海域で初めてとれた魚ということで、標準和名を提唱することができました。
論文はオープンアクセスなので以下より誰でも読めます!
また、標準和名に関しては前回のブログ(以下リンク)で簡単に説明してます。
ここでは論文の裏話などもしていきます。
日本初記録というとよく、「すごい、新種が出たの!」と言われますが、多くの場合は新種ではないです。
新種は簡単に言うと世界で誰も記載していなかった種類を記載し、その生き物に学名をつけることです。
日本初記録は、ほかの国では知られている種類が日本で初めて採集され、報告されたときに使う言葉です。
新種でも日本初記録でも、過去にその種類に適切な標準和名が提唱されていなければ、新たに標準和名を提唱することができます。
さて、今回報告したのはScomberoides tala(以下S. tala)という学名のイケカツオ属の魚で、これまでは熱帯のインド太平洋地方(南アフリカ東岸、パキスタン、インド、ベンガル湾、オーストラリア、タイ湾、南シナ海)で知られていた種類でした。
日本の海域ではそれまでイケカツオ属の魚は3種が知られていました(イケカツオ、ミナミイケカツオ、オオクチイケカツオ)。
いつもお世話になっている宮崎県北部の門川湾の定置網の漁師さんが2021年の11月に、イケカツオっぽいけど雰囲気が違う魚として写真付きでFaceBookに投稿したのが始まりでした。
それをみた魚好きの方々がもしかしてこれは...となり、なんやかんやでその魚の標本をいただくことになりました。
それから標本の細部を調べ、過去の文献などと照らし合わせていくと、日本ではまだ見つかっていない種類(つまりS. tala)であると判明したので論文にすることになりました。
非常に幸運だったのが、この標本個体を博物館に登録するときに、僕が調べきれなかった文献を持っていた博物館の学芸員の方に共同研究者になっていただいたことです。
その文献は2012年に出版された沖縄島の市場の魚図鑑(※1)で、写真付きで様々な魚が紹介されているものでした。その中のオオクチイケカツオとして載っている写真個体が、S. talaの誤りであると教えてくださったのです。
さらに、論文投稿して何度か査読者からの修正依頼に対応していると、その方の知り合いの方から石垣島で見慣れないイケカツオを釣ったとのことで連絡があったそうです。
その個体もなんと、S. talaだったのです!
捌かれた後ではありましたが、何とか石垣島の個体も博物館で標本にすることに成功しました。
結果としてS. talaは日本の海域で宮崎県、石垣島から標本が得られて、沖縄島からは写真の記録があるという報告ができました。
しかし、論文受理までまだ苦難がありました。
投稿して数か月経った頃に、別の研究者の方が共同研究者の方に1943年の日本語文献にS. talaが日本語名付きで載っていると教えてくださったとの連絡がありました。
その文献(※2)は熱帯の海の魚を載せたもので、日本にいない魚も載っていました。
その中になんとS. talaが「タランタラン」という名前で載っているではありませんか!
しょうがないので、新しくこの魚につけようと思っていた和名から変更し、このタランタランという和名を引き継ぐ形にして再度投稿しましたが、査読者の方からタランタランは適格ではないからやめろとの指摘をいただきました。
そもそもなぜタランタランという名前をその文献では使っていたかというと、おそらくマレー語圏でのS. talaの呼び名(つまり地方名)に由来していると推測されました。
実際にインドネシアの魚図鑑等で、S. talaを含むイケカツオ属の地方名は"Talang-talang"となっています。
日本魚類学会の標準和名検討委員会の文章中で、「標準和名でない和名」の項に「英名等の発音に基づく便宜的な和名」があることから、査読者の方は指摘してくれたのでした。
https://www.fish-isj.jp/iin/standname/guideline/guidelines2020.pdf
ということで元々つけたかった和名「アキイロイケカツオ」をS. talaに対して提唱することができました!
もっと正確に言うと、標準和名を提唱する際は学名と同様、標本1個体に対してつけなければならない(のちの混乱を防ぐため)ので、宮崎県門川湾で2021年11月に採れた個体に「アキイロイケカツオ」という和名をつけたことになります。
漢字では「秋色逆鉤鰹」となるみたいです。
なぜアキイロイケカツオかというと、
・秋に採集されたこと(宮崎県は秋が短く、11月中旬~12月中旬くらいしかない)
・S. talaの特徴として挙げられる橙色から黄色のひれが、秋の紅葉を連想させること
の2つのことからこの和名にしました。
季節の秋が和名に入っている魚がいないことも狙っています笑
何とか公開されてほっとしましたが、今回は簡単に報告できるだろうとパパっと仕上げたのが仇となり、後々自分を苦しめることになりました。
今後は最初からもっと丁寧に書き上げます。
※1:三浦.2012.美ら海市場図鑑 知念市場の魚たち.ウェーブ企画.140 pp.
※2:南洋産の主要魚類[17].理論・應用 植物及動物 11: 679–683.